生田絵梨花とコゼット、そしてレ・ミゼラブル

 7月28日、東宝ミュージカル「レ・ミゼラブル」の2017年公演のキャストが発表されました。物語の主要な役、コゼット役のダブルキャストの一人に、生田絵梨花の起用が決定したとのことで、このニュースは、SNSなどを通して瞬く間に大きな話題となりました。これまでの2本のミュージカルや、「ロミオとジュリエット」の発表のときよりも大きなものだったような気がします。ミュージカルに詳しい人、そうでない人も、また、レミゼを知ってる人、知らない人にかかわらず、「いくちゃん、すごい!」という感じで。あと、「レ・ミゼラブル」という作品に関しての、詳しくはわからないけれど、「もしかして、すごいことなんじゃないの」的な驚き(と、少しの困惑と)。そんな雰囲気をこの日に感じました。

また、乃木坂ファンのみならず、それまで過疎状態だったミュージカル系の掲示板などでも、この発表は賛否を含めた大きな話題となり、活発なコメント投稿や議論がなされるなどの反響を呼びました。

 発表から数日が経って、今回、この出演がもたらすことの意味、影響、そして反響のなかで見られた否定的な意見、肯定的な意見、心配事?などを、ちょっと自分のなかで整理してみたくなりました。

レミゼちらし





  〇ミュージカルへの関心

 いくちゃんに関して、ブログ等の情報を追うわけでもなく、限定的で断片的な知識しか持たない自分ですが、それでもいくつかの事例に関して、ミュージカルと絡めて関心をもって追ってました。 

・イマジンミュージカル(児童ミュージカル劇団)出身であること
・お見立て会の時に「夢やぶれて」(「レ・ミゼラブル」より)を歌ったという情報
プリンシパル(だったかな?)フニクリ・フニクラをうたった時の様子
・ お泊まり会?で「トゥモロー」(「アニー」より)のさわりを歌う

 ほんとに断片ですが、こうした素材などから、この人はもしかしたらピアノもそうだけど、ミュージカルにも関心とか憧れがあるんだな、みたいな類推はしていました。ただ、実際に2014年の7月、「虹のプレリュード」への出演が決まったとの報に接した時にはびっくりしました。当時はまだ休業中でもあったし、こんなに早くそうした機会がやってくるとは当時は予想もしていませんでした。

nijipure


〇続く出演機会

 2015年に乃木坂メンバーが破竹の勢いで外仕事を獲得していった時期がありました(今でも継続していますが)。モデル起用やテレビ出演のお仕事だけでなく、舞台のほうでも、「じょしらく」、「すべての犬は天国に行く」などに続けて出演し、自分としてはとても満足のいく観劇体験をさせてもらっていました。

ribon


10月のリボンの騎士もすごく良い舞台だったし、乃木坂46全体としての勢いも感じられる中で、自分としては、いくちゃんにとある願望を抱いていました。
オーディション日程とかその後のスケジュールとか、かなり真剣に考えてから呟きました。本当に具現化されたのかと思うと、とても感慨深い。 


〇実はこれがプロデビューとなる?「ロミオとジュリエット

romijyuri



















 以前に上演された「ロミオとジュリエット」がどのような作品なのか、どういう評判だったのか、未見なのでわからないのですが、過去の傾向から見るとジュリエット役に関しては、「新人女優のデビュー枠」なのかなと思います。過去4名のキャストと今回のダブルキャストの新人の方。みなさん一応この作品が、「プロデビュー作品」となっているようです。いくちゃんに限っては、既に二作で主役を演じているんですけど・・・。笑

 小池修一郎氏の演出作品ということで、かなりいい作品であることは間違いないと思います。むしろ、さらに期待してしまうのは、小池演出作品に出演した役者さん、ほんとにその後どんどん売れて有名になっていきます。作品の面白さもさることながら、役者を伸ばす力というのでしょうか。つい先日、テレビ番組で大地真央さん、黒木瞳さん、小池先生の鼎談が放送されていたのですが、この黄金コンビの誕生と活躍にも氏の力が大きかったそうで、あらためてすごい演出家なんだなと思いました。

  ハプスブルクものもいいけれど、それだけじゃない。
  宝塚版「銀河英雄伝説」は意外性があっていい。違和感は徐々に落ち
  着いてくる。だんだん人間劇の深さに引き込まれていく感じ。
  新しい銀英伝


 個人的な趣味でなんですが、昆夏美さんのファンです。ホリプロ版ロミジュリの初代ジュリエット、そして前回レミゼのエポニーヌ。今年5月、大阪でミュージカル「GRAND HOTEL」を鑑賞しました。歌もダンスも素晴らしかったです!今、彼女はミュージカル女優として若手トップの位置にあると思います。その彼女と同じ道のりを歩もうとしているのが現在のいくちゃんだと思います。いや、ロミジュリ出演を待つまでもなく、コゼット役を射止めたいくちゃんのほうがもしかしたら先を行っているのかもしれません(贔屓のひきたおしですが・・)。ただ、大好きな二人が大好きなレミゼで共演して、ましてエポニーヌとコゼットという配役で、プリュメ街、A Heart Full of Loveをうたうのかと思うと、その姿を想像しただけで胸が熱くなります。
                       (新年にはミス・サイゴンいきます)

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poster


〇「レ・ミゼラブル」はそれほど凄い作品なのか?

 何が好きかは個人の趣味、嗜好の問題で、なかにはレミゼは苦手という人も大勢おられると思います。ただ一般論として、30年以上にわたる長い公演の歴史あること、洋の東西を問わず、北半球であろうが南であろうが、時にキリスト教圏以外の国も含めて伝播が広範に及ぶ作品であること、累計の観客動員数及び出演者数など、相当に類を見ない作品であることは間違いないと思います。

 自分程度の知識や経験では、正直何が凄いのか、何故レミゼ出演に関して注目を浴びるのか、よくわかりません。自分がこの作品が好きな理由は、①人は社会の変化に影響されずに生きていくことが難しい、ということ。②社会の体制とか価値観が二転三転して、社会の序列なり秩序が混沌とした時に自分は何を信じるか、ということ。③真の善人とは何か、また悪人とは何か、そして両者は存在するのか、ということ。④社会のうねりの中で、それでも人は必死に人を愛して、必死で生きている、ということ。⑤どのような人であれ、人は人として肯定されるべき存在であること。こうした感情や事柄を、音楽と芝居を通して感じることができたり、触れたりできると思うから好きです。


 日本語版の良さは、岩谷時子先生の訳詞にあると思います。曲に対しての
 歌詞の符割が ピタリ合っていて、観て聴いて、違和感を全然感じない。
 オペラ座の怪人はおもしろいけど 日本語版はやや観るのしんどい。
 who am I?のところで、オリジナルではバルジャンの囚人番号が24601
 (トゥー・フォー・シクス・オー・ワン)なのに対して、日本語版では24653(にー・よん・
 ろく・ごー・さーん)に変更させられている。これは曲のメロディーに歌詞
 をあわせやすくするためにわざと。こうした丁寧さと工夫がある。
 
30years



















〇アイドルに出来るのか?

 黙って自分の眼で見て判断すればいい問題だと思います。


 1月に「DNA-SHARAKU」という作品を鑑賞しました。AKB48田野優花
 出演していました。歌も演技、踊りもよかった。パンチが効いていて、キャスト全体の中でそれがとても効果的だった。


 
 今さら、早見優のときはどうだった、みたいな議論は全く不必要。
 勝手にしゃべってろ。



〇何故コゼットだったのか?

 前に、どなたかがツイッターで握手会のレポを挙げておられました。いくちゃんレーンに行って質問をぶつけたところ、やりたい役はコゼットでもファンテーヌでもなく、エポニーヌだと。ファンテーヌは年長の人がやる役なので最初から除外ですが、エポニーヌがやりたいというのは意外でした。自分のイメージとしては清らかでかわいらしいコゼットがぴったりで・・。中にはコゼットは当たり前すぎてむしろエポニーヌだろ、という人もおられたようですが・・。
コゼット

かつて、アイドル声優であった平野綾が、アニメから離れた後、ある時レミゼのオーディションを受けたそうです。コゼット役で受けたのですが、演出家からエポニーヌのほうが似合っていると言われたそうです(その後、エポニーヌとして出演を果たします)。まったくわかりませんが、いくちゃんはエポニーヌで受けたけれど、結果的にコゼットになったのでしょうか??

自分は、その可能性は低いのではないかな、と思っていて、ちょっとテクニカルな側面かもしれませんが、on my ownの後半、♪いっしょおー ゆめーみるー だけえーさー の「え」と「さ」はファルセット※になってしまうような気がします(あくまでリボンの騎士の段階では)。あと、♪しあわせのせかいにえんなど なーーーーーい を支える息と声があるような感じがしない(同)。声の色というか、キャラクターもコゼットのイメージに近い。年齢ということではなくて、訓練、技術の問題もある。


〇演じる意味

 だからこそ、今回の出演には大きな意味があるのだと思います。人気絶頂にある乃木坂46の中心人物として存在する生田絵梨花がコゼットを演じる。演技、歌唱、さまざまな面で支障があるのは敢えて当然のこと。困難なところに自分の意思で飛び込み、自分がやりたかったことを成し遂げようとしている。

東宝ミュージカルにおいて、一足先に出演を果たす宮澤佐江は、グループを卒業しました。これは結果論ですが、トップアイドルを兼ねながら出来るような世界ではないんだと思います。だから、今いくちゃんがやろうとしていることは前人未踏の領域であって、後にも先にも例のないことをやろうとしているのだと思います。全く新しいロールモデルの構築。そのためには、いくちゃん個人の努力や能力に頼るだけではなく、運営の人たちも、運営としてどう関わるのか、ファンへの広報やコミュニケーション、その他諸問題。運営としてのあり方も問われているのだと思います。

teigeki


















〇最後に

 今回の発表を受けたファンの様々な反応をまとめて、誰かが「レミゼ騒動」と表現していました。すごく嬉しい事なのではないでしょうか。日本初演から30周年の記念すべき公演のキャストが発表されて、反応が薄いというのはあまりに寂しい。この際、乃木坂ファンはどんどん演劇やミュージカルの方面にもそのバイタリティーを伸ばしていけばいいのではないでしょうか。アイドルとアイドルオタクを毛嫌いする演劇ファンも、乃木坂46というグループを通してほんの少しの視野の開拓があるかもしれません。両方不可能ではないと思います。

 2017年はミュージカルの年になりそうです。まだ2016年なのに、今から来年が楽しみで仕方がありません。メンバーやファンはもちろんのこと、乃木坂46に関わるすべての人たちにとって、今日という日は予め予測可能な今日だったでしょうか。決してそうではなかったと思います。明日は希望に満ちている、なんて何かの枕詞のように用いますが、歯の浮くようなこうした言葉さえ今の乃木坂の前ではすっとおさまってしまう。だからいろんな意味、感情を込めて、

           Tomorrow we'll discover
                                What our God in Heaven has in store!
                                One more dawn
                                One more day
                                One day more!!

onedaymore











文:だいせんせ(但し、NK46さんをはじめとした諸先輩方との意見交換を通して、その中の表現も使用させてもらっています)




引用部分は自分の感想です。 


※:この歌ではそう歌わないということ。