乃木坂スター誕生で乃木坂ちゃんは松原正樹のギターとどうセッションしたか

『聴けば一発でわかる』と評されるセッションギタリストでスタジオミュージシャン松原正樹のギタープレイ。寺尾聡の「ルビーの指輪」、松山千春の「長い夜」、松任谷由美の「恋人がサンタクロース」、ほかには松田聖子の「渚のバルコニー」など、弾いてる人の名前は知らなくても、”このギターフレーズどこかで聴いたことある”、となる人の代表例。印象的で耳に残るギター。

 

悲しいことに、何年か前に癌でお亡くなりになり故人となられているので、今では実際の演奏を目にすることは叶わないけれど、300曲を超えた乃木坂スター誕生での演奏楽曲の中で、原曲が松原正樹によるギタープレイのものが10曲あった。この番組では、オケはアレンジャー陣がはじめから作っているので、言い換えれば、そしてひとりのギタリストに絞れば、その人の演奏をどのように再現しているのか、という観点から視聴することができる。実際にセッションしたわけではないけれど、まるでほんとにセッションをしたかのように。

 

それは、『聴けば一発でわかる』ギターにもういちど新しい命を吹き込む作業ではなかったか、と自分は思う。今回着目するのはたまたまギターではあるけれど、ギターに限った話しではなくて、この乃木坂スター誕生における音源作りの作業というのは、過去の音楽遺産を現代の技術を駆使しながら、これからも継続が可能なかたちで置き換え、保存する。そういう側面もあったのではないかと思う。そのわかりやすい例として、誰もが耳にしたことのある松原正樹のギターを取り上げてみようと思った。

 

 

①「真夜中のドア ~Stay With Me」松原みき(小川彩)

 作詞:三浦徳子 作曲:林哲司 編曲:林哲司

 

新スタ誕生#21より

いきなりで申し訳ないがこの曲についてはギターが主役となるフレーズが登場せず聴けば一発でわかる、ほどの部分がない(ただ、少し地味かもしれないがイントロの刻みや印象的なクロマチックは超重要部分ではある)。本来なら曲の最後のほうでそれはもう見事なオブリガートがあるのだが、さすがに放送サイズの関係上そこは含まれていない。ここでは色彩豊かなブラスセクションをカッティングのリズムで支える裏方さん的な役割として構成されている。それを敢えて最初にもってきた理由は、あまりに小川彩が圧倒的だったから。歌もリズムも表現や表情もすべてが。

 

冒頭の、♪To you~から15歳とは思えない妖しい魅力を放っていて、彼女の歌の世界に引き込まれてしまう。

 

杉山清貴

「最近の子はリズムのとり方が違うんですよ。僕なんか8でとるところを彼女は16ですから」

オズワルド伊藤

「そうなんです!それ(ゲストの方)みんな言ってます!」

 

放送を見ていると、杉山清貴はリズムを縦に捉えていて(それが8であるということ)、隣で歌う小川彩は(番組の中では腰クネクネという表現をしているが)、体の軸を中心に横回転でリズムを回しているような感じ。それが新鮮に見えて、先の杉山さんの言葉になったのかなと思う。

 

小川彩に限ったことではないが、番組全体を通して5期生全員にこのリズム法は徹底されている。足の指先とか手を使ってリズムをとるメンバーは5期生には皆無である。たぶんそういう指導を受けているのだろうなと想像。

リズムが正確でさえあれば、音程が少々はずれたとしても、その逆よりは遥かに音楽としては成立する。これは真理だと思う。4期生の乃木坂スター誕生と5期生のそれがいちばん異なる部分は、4期はデビューからじゅうぶんな期間を経てこの番組に登場したけれど、5期生はデビューの直後、まったくの素人の状態からテレビ放送の帯番組しかも歌番組に放り込まれてしまった。皆が歌える子ばかりではないから、音楽番組として成立させるための方法として、”リズムをあわせる”ことがまず重要視されたのではないかと想像。(いや皆さんが必死で歌練習されている様子も5期生の挑戦!で見てました)

 

結果、小川彩のゆったりとした腰の回しに対して、バックトラックのギターの早いテンポでのカッティングが見る側にとってのメトリックモジュレーションのような効果を産んで、それが上質なグルーブとなって伝わった。音源の良さ、パフォーマンスの良さがあわさって、ここにまた「真夜中のドア~Stay With Me」の名カバーが誕生したのではないだろうか。

 

②「恋人がサンタクロース松任谷由美山下美月

 作詞:松任谷由美 作曲:松任谷由美 編曲:松任谷正隆

 

スタ誕2#11より

サビでの山下美月の声の伸びに対して、合いの手にようにリフではいってくるギターがとてもいい!この松原ギターの合いの手があったからこそ、この曲のサビはこんなにも多くの人に愛されてるのだと思う。耳によく馴染んだギターサウンドが忠実に再現されていて、山下美月の歌声とのボリュームバランスもとても聞きやすいと思う。クセになるフレーズ!

Bからの歪みの効いた重厚なギターのバッキングと、対する彼女の爽やかな声との対比も聞きどころ。ソロだと山下さんこんな感じになるんだと思いました。

 

そう言われてみれば、自分の中では山下美月に”歌う人”というイメージがなくて、このときに聴いた歌ではじめて彼女の歌声を聴いたかもしれない。とても新鮮でした。そしてギターとは関係ないけれどスーパーやんちゃんず素晴らしい!

 

③「微笑みがえし」キャンディーズ(一ノ瀬美空、池田瑛紗、川﨑桜)

 作詞:阿木燿子 作曲:穂口雄右 編曲:穂口雄右

 

新スタ誕#3より

同じギタリストでも年代が違えば音も違ってくる。けれど、印象に残るイントロのギターフレーズはやはり松原正樹という人をあらわしているのだろうか。そしてギターサウンドそのものよりも、電子楽器がまだ発達していない時代の、生の楽器の音がいい意味で騒々しい。エフェクターとか機材のこととかまったくわからないけれど、なんだかかわいらしい音だなあ、という印象。キャンディーズ自体についても自分の記憶に無いことはないのだけれど、咀嚼ができていないから、

あと、川﨑桜が緊張なのかガチガチのコチコチ(笑)。
彼女はのちにchayさんと歌う「キッスは目にして」で愛嬌満天!度胸満点!の最高のパフォーマンスを見せることになるので、まだ序盤のこの時のパフォーマンスはある意味貴重。

 

④「六本木純情派」荻野目洋子(中西アルノ)

 作詞:売野雅勇 作曲:吉実明宏 編曲:新川博

 

スタ誕2#16より

一瞬で曲の世界観を決定付けて見る者を引き込む最初のギター。豪胆で野趣にあふれるオリジナルのギターサウンドがここで見事に再現されていてほんとに素晴らしいと思った。イントロ、間奏、アウトロ、全編にわたって目立つギター!まさにこういう音を聴いて自分たちは育ってきたことを再認識させられる。それを中西アルノという新しいスターが歌い、踊る。日本のポップスは受け継がれる段階に来たと思う。中西アルノの歌の力。

 

⑤「My Revolution渡辺美里(井上和・中西アルノ)

 作詞:川村真澄 作曲:小室哲哉 編曲:大村雅朗

 

新スタ誕生#23より

音楽に詳しい人ほどこの曲の肝はギターにあるという。

そのへんがギターがわからない、幼稚な自分にはまだ理解ができなくて。

わかりはじめたときがMyRevolution。

 

イントロの♪テトテトテト(スージー鈴木氏の表現)、♪カンコカンコカコ(亀田政治氏による表現)、なんでもいんですがシンセマリンバを少しグロッケンに寄せていったような独特な音。いまではサンプリングもひろまってメジャーな音になってしまったけれど当時の新鮮さをこの番組のアレンジでは新しい音色で表現してました。この音が自分はオリジナルの次、もしかしたらオリジナル以上に好きかもしれない。最高のアレンジです!

 

そしてボーカルミックスの勝利!YU-KIさん、井上和、中西アルノの3人の声のミックスが奇跡のような素晴らしさでした。これも間違いなく名カバーでした。自分の言いたいことは番組の中で奥田いろはが全部解説して話してくれています(笑)。完璧なコメントでしたし、奥田いろはが良い歌い手であると同時に良い聴き手であることもよくわかりました。そこも含めていい演奏でした。

 

⑥「守ってあげたい」松任谷由美(北川悠理)

 作詞:松任谷由美 作曲:松任谷由美 編曲:松任谷正隆

 

スタ誕#11より

アルペジオ風に演奏する感じは今回の10曲の中ではちょっと珍しいかも。

味付けとしてはギター色はあまり強くない。ローズとハープシコードの奏でがとても気持ちのいいアレンジ。

 

「曲のやさしさに私が守られてると思いました」 北川悠理

 

アレンジ全体として、やさしいけれど裏拍のシンコペーテッドな部分とかメリハリもしっかり効いていて間延びするようなところがいっさい無い。あらためて、ため息のでるような名曲。北川悠理にぴったりと寄り添うような曲、アレンジだったと思います。

 

⑦「センチメンタルジャーニー」松本伊代秋元真夏

 作詞:湯川れい子 作曲:筒美京平 編曲:鷺巣詩郎

 

新スタ誕#3より

まず、この曲のギターも松原正樹だったのか、という。

イントロくらいしか印象ないけどでもそれで十分なのかもしれない。無意識に浸透してくる松原ギター。

センチメンタルジャーニーといえばFNS歌謡祭で堀未央奈松本伊代さんと一緒に歌ってました。このときは鳥山雄司さんがギターだったと思う。

 

⑧「ミラクル・ガール永井真理子(佐藤璃果)

 作詞:亜伊林 作曲:藤井宏一 編曲:根岸貴幸

 

スタ誕#17より

1990年近辺はどこもギターはこういう音をしていた。プリンセスプリンセスの登場からやがてビーイング系が席巻するまでのあいだというか、、。軽快なロックサウンドではあるけれど特別ギタープレイとしての印象はこの曲にはないかな。この曲もそうだったんだという印象。それよりも、後にこの番組に永井真理子さんご本人が出演をされて、そしてミラクル・ガールを歌った佐藤璃香と「ZUTTO」一緒に歌ったのだけれど、全盛期の頃をよく見ていただけに、過ぎた時を感じてしまった。

 

⑨「赤いスイートピー松田聖子(川﨑桜)

 作詞:松本隆 作曲:呉田軽穂 編曲:松任谷正隆

 

新スタ誕#13より

赤いスイートピー」については松本隆松任谷由美の回で。

 

⑩「渚のバルコニー松田聖子(遠藤さくら)

 作詞:松本隆 作曲:呉田軽穂 編曲:松任谷正隆

 

乃木坂スター誕生#1より

ここから乃木坂スター誕生ははじまった。最初から松原正樹のギターがここにあった。最初に歌ったのは遠藤さくら。新しい風を乃木坂に運んでくれたし、それ以上の何かの始まりであったようにも思う。2年の歳月を経て終わりをむかえるこの番組のなか、今でも強烈に焼き付いているのが彼女の「渚のバルコニー」。遠藤さくらの存在が乃木坂スター誕生という番組そのものを産みだしたのだと自分は思ってる。さくらちゃんにありがとう。そしてカンケさんにありがとう。

 

 

                           だいせん